会社でミスをして損害賠償を求められた! 岡崎の弁護士が対処法を解説

2021年06月07日
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会社でミスをして損害賠償を求められた! 岡崎の弁護士が対処法を解説

会社でミスをしてしまって、会社に損失を与えてしまったというとき、どのように対処するべきでしょうか。

たとえば取引先を失った、会社の備品を壊したなど、さまざまな理由で、労働者が使用者から損害賠償を求められてしまう場面があります。このようなとき、会社から賠償を求められた場合、応じなければならないのでしょうか。

過去、愛知県では、従業員が居眠りをしたことが原因で、高価な機械に傷をつけたことについて、会社が損害賠償を求めた事件がありました。この事件では、従業員は損害の4分の1の額についてのみ、責任を負うと判断されています。(名古屋地裁昭和62年7月27日判決)

本記事では、上記のような事例をご紹介しつつ、会社でミスをして損害賠償を求められてしまった場合の対処法について、ベリーベストの弁護士が解説します。

1、損害賠償責任は、基本的には限定される

まずは、会社でミスをした場合の損害賠償責任について、法律ではどう考えられているのか、原則を確認していきましょう。

  1. (1)危険責任の原理と、報償責任の原理

    労働者が仕事上のミスで会社に損害を与えた場合、使用者は労働者に対し、債務不履行(民法415条)または不法行為(民法709条)を理由として損害の賠償を請求できます。

    しかし、労働者は使用者からの業務上の指示のもとで働いており、使用者は労働者の危険発生についても責任を負うべきです。このように、危険を発生させる要因を作っている者には、そこから生じた権利侵害についての責任を負わせるという考え方を「危険責任の原理」といいます

    また、労働者が仕事を行うことで使用者は利益を得ているのですから、それによって生じるリスクについても責任を負うべきです。このように、利益のあるところに損失も帰属させるのが公平であるとする考え方を「報償責任の原理」といいます

    以上の危険責任の原理と報償責任の原理から、労働者の損害賠償責任は、一定の制限をする必要があると考えられています

  2. (2)使用者責任とは

    労働者が業務の一環として行った行為で第三者に損害を与えた場合、使用者は、その労働者と連帯して、第三者に対する損害賠償責任を負います。このような使用者の責任については、以下のような原則が民法715条に定められています。

    • 労働者によって被害を受けた第三者としては、その損害を労働者・使用者のいずれに請求してもよい。
    • 使用者としては、一旦は労働者が負っている損害賠償債務を肩代わりしなければならない


    これも、先に説明した危険責任の原理や報償責任の原理に基づく制度です。使用者は労働者の活動により利益を得ているわけですから、労働者の行為が原因で第三者に損害が生じてしまった場合には、この2つの法理に基づき、使用者にも損害賠償責任が発生することになります。

    また、使用者が第三者に対して損害を賠償した場合、使用者は労働者に対して求償権の行使が可能です(民法715条3項)。
    求償権とは、債務を肩代わりした人が、その肩代わりした金額の全部または一部を、本来その債務を負担すべき者に請求できる権利のことです。
    すなわち、労働者は、自分のミスによる損害を会社が肩代わりした場合には、今度は会社から請求を受ける可能性があるということです。
    もっとも、この求償権についても、使用者から労働者に対する損害賠償責任と同様に、大きく制限されると考えられています。

2、過去の裁判例を解説

それでは、過去に会社と従業員の間で損害賠償が問題になった事件を、裁判所はどう判断したのでしょうか。2つの事例を解説します。

  1. (1)会社の求償権を認めたが、全額の支払いは認めなかった裁判例

    この事件は、石油等の輸送業など営む会社の従業員がタンクローリーを運転中、追突事故を起こした事件です。会社は被害者に損害賠償金を支払ったのち、タンクローリーの修理代なども含めた損害賠償を従業員に対して求めました。

    最高裁判所はこの事件に対して、会社は従業員に対し損害の賠償および求償の請求をすることは可能であるが、今回の事件の状況を考えると、その金額は損害額の4分の1に制限することが妥当であると判断しました。

    判決は、使用者の被用者に対する損害賠償または求償権の範囲について、以下のように判示しています。

    使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。


    民法715条3項は、使用者責任が成立する場合に、使用者が被用者に対し求償権を行使することを認めています。しかし、本判決は、使用者の求償権は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる範囲に限定され、全額の求償が常に認められるわけではない、ということを初めて示した最高裁判決です。(最判昭和51年7月8日)

  2. (2)会社の損害賠償請求を認めたが、全額の支払いは認めなかった裁判例

    この事件は、工作機械等の製造販売を行う会社が、従業員が深夜労働中に居眠りをしたことが原因で高額な機械を傷つけられたとして、従業員に対して損害賠償を求めた事件です。

    裁判所はこの事件に対して、会社は従業員の軽過失に基づく事故については労働関係における公平の原則に照らして、損害賠償請求権を行使できないとしました
    そして、本件では、ミスが重大な結果をもとらしかねない危険な作業中であったにもかかわらず少なくとも7分間の居眠りが行われたことからすると、軽過失とはいえず、従業員は損害賠償請求を免れることはできないと判断しました。

    もっとも、損害賠償額について裁判所は、労働過程上の過失もしくは不注意によって生じた事故については、雇用関係における信義則及び公平の見地から諸事情をさらに検討斟酌してその額を具体的に定めるべきであるとし、従業員が賠償すべき金額は損害額の4分の1であると判断しました。(名古屋地裁昭和62年7月27日判決)

3、損害賠償を求められた時には弁護士へ相談を

会社から損害賠償を求められた過去の事件を解説しましたが、被害者や会社側から請求された金銭をそのまま支払うと、結果的に払わなくて済んだはずのお金を払ってしまったという結果になってしまいかねません。

そのため、実際に会社から損害賠償を求められた時には、早めに弁護士へ相談することをおすすめします

弁護士は、会社からは独立した立場にありますから、徹底的に戦います。また、当然ながら、戦うにあたり必要な法的知識も兼ね備えています。万が一、労働審判や裁判になった場合でも、代理人となり、依頼人の利益を守るために活動することが可能です。

また、「損害賠償を支払うまで退職させない」「給料から天引きする」といったことを会社が言ってきた場合にも、法に則って適切に対処できます

もっとも、弁護士であっても、一旦決着がついた紛争を蒸し返すことはなかなか難しいため、このような事態に陥っても、あせってご自身で解決してしまうのは禁物です。まずは一度、弁護士に相談しましょう。

4、まとめ

ミスをして会社に損害を与えたからと言って、会社から請求された損害賠償金額を、そのまま支払う必要はありません。

会社は従業員の労働により利益を得ているため、危険責任の原理や報償責任の原理から、労働者の損害賠償責任は大きく制限されるのです。

ベリーベスト法律事務所では、労働問題について多くのご相談を受けております。

弁護士への相談に抵抗を覚える方もいらっしゃるかと思いますが、当事務所ではお客さまに寄り添い、パートナーとして問題を解決することをモットーに、問題が解決するまで全力でサポートいたします。

会社でのミスをきっかけとして労働問題を抱えてしまった方は、ぜひベリーベスト法律事務所 岡崎オフィスまでご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています