山林の相続 そのポイントを岡崎の弁護士が解説

2021年07月19日
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山林の相続 そのポイントを岡崎の弁護士が解説

岡崎市は、平成18年1月1日に額田町と合併しました。それによって、岡崎市の総面積3万8724ヘクタールのうち民有林が2万2825ヘクタール占めることになりました。岡崎市全体に占める民有林の割合は約60%にもなり、山林の割合が多いことがわかります。

親が亡くなって遺産を調べていると、遺産のなかに山林があったという方もいるでしょう。山林は、管理に手間がかかるうえに売却も容易ではないことから、相続したくないと考える方もいるかもしれません。仮に相続をするとしても、山林の場合には、一般的な宅地の相続とは異なり、特別な手続きも必要になりますので、きちんと押さえておくことが重要です。

今回は、山林を相続するときの5つのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 岡崎オフィスの弁護士が解説します。

1、山林相続のやり方

相続財産に山林が含まれる場合には、どのように相続手続きを進めていけばよいのでしょうか。以下では、まず山林相続の流れについて説明します。

  1. (1)相続財産の調査

    まずは、被相続人の相続財産を調査し、山林が相続財産に含まれているかどうかを確認しましょう。

    調査すべき不動産が特定されているのであれば、法務局で登記事項証明書を取得する方法が考えられます。しかし、この方法は、特定の不動産の名義を確認できるだけのため、被相続人が生前に不動産を所有していたことは確かだが、所在が全く分からないというケースでは有効ではありません。

    このようなケースでは、市区町村における名寄帳(固定資産課税台帳)を確認するのが有効な手段です。名寄帳は、市区町村が不動産の所有者に固定資産税を課税するにあたり、個人が所有している宅地、農地、山林などの不動産を一覧表にしたものです。

    名寄帳を確認することで、被相続人が不動産を有していたか否かを、自治体単位で調査をすることができます

  2. (2)遺産分割協議

    相続財産の調査が完了したら、すべての相続人で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決めます。

    山林については、

    • 単独名義にする
    • 共有名義にする
    • 売却


    などが考えられますが、共有名義にするとその後の管理・処分が複雑になりますし、将来相続が発生したときに共有者が増える可能性があり、権利関係が煩雑になるというデメリットがあります。

    また、売却をしようとしても、山林は買い手を見つけるのが困難ですので、すぐ売却できる可能性は低いでしょう。そのため、山林を相続するときには、相続人ひとりの単独名義にしておくことがおすすめです

    なお、被相続人の遺言書がある場合には、遺言の内容に従って相続することになりますので、基本的には遺産分割協議は不要です。

  3. (3)遺産分割協議書の作成

    遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成し、協議で決まった内容を残しておく必要があります。

    遺産分割協議書には、相続人全員の署名押印が必要です

    押印する印鑑は、実印を使うようにしましょう。遺産分割協議書に山林を記載するときは、登記事項証明書に記載された内容を参考に、土地の所在地、地番、土地の種類、地積を記入し、どの山林を相続するのかを特定できるようにします

  4. (4)市区町村への届出

    山林を相続した場合には、市区町村への届出も必要です。

    具体的には、山林の所有者となった日から90日以内に、市区町村に届出をしなければならず、これを怠った場合には、10万円以下の過料に処せられるおそれがあります。
    相続開始から90日以内に遺産分割協議が整わなかった場合には、法定相続人の共有物として届出をする必要がありますので注意しましょう。

    意外と知られていない手続きですので、山林を相続した場合には、忘れずに手続きをするようにしてください。

  5. (5)法務局へ届出

    山林も不動産ですので、山林を相続した場合には、相続登記をしなければなりません
    現時点では、相続登記は義務化されてはいませんが、近年、所有者不明の土地が問題となっていることから、今後、登記が義務化されるといわれています。

    その場合には、相続登記を怠れば罰則が科される可能性がありますので、注意しましょう。

  6. (6)森林組合に届出

    山林を相続したとしても、山林の管理や処分に困ってしまう方もいるでしょう。そのようなときは、管轄する森林組合に土地活用をしたいと伝えておくのがおすすめです。

    このような意思表示をしておくことで、森林組合が山林の買い手や借り手を探し出してくれる可能性があります。山林の活用を考えているときも、専門家である森林組合に相談をしてみるとよいでしょう。

2、山林を相続したくないときは相続放棄

上記で述べたような手続きの負担を考えると、「山林は相続したくない」と考える方もいらっしゃると思います。その場合には以下の通り、相続放棄をすることで、山林の相続を拒否することが可能です。

  1. (1)相続放棄とは

    相続放棄とは、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産を含めた、一切の権利義務の相続を放棄し、初めから相続人でなかったとみなされる制度のことをいいます。

    相続放棄をすれば、山林を相続することを回避ができますが、同時にその他の遺産も相続できなくなります

    そのため、相続放棄をするかどうかは、他の相続財産の内容と金額を踏まえて、考えるようにしてください。

  2. (2)相続放棄の手続き

    相続放棄は、話し合って決めるものではなく、家庭裁判所に申し立てをしなければなりません

    相続放棄の期限は、相続の開始を知ったときから3か月以内となっています。期限を経過した後は、原則として相続放棄をすることができなくなりますのでご注意ください。

    なお、相続財産の調査などが長引き、相続放棄をするかどうかの判断が3か月以内にできないときは、家庭裁判所に申し立てることによって、相続放棄の期間の伸長が認められることがあります。

3、山林の相続税の計算方法

山林を相続した場合には、その評価額によっては相続税が課税されます。以下では、山林の相続税の計算方法を説明します。

  1. (1)相続税の計算方法

    相続税の計算方法は、基本的には以下のように行います。

    {(遺産総額)-(基礎控除額)}×相続税率


    基礎控除額は、以下のように計算します。

    3000万円+600万円×法定相続人の人数


    たとえば、父が亡くなり、相続人が妻、長男、長女の3人だった場合には、4800万円が基礎控除額になり、遺産総額から控除されることになります。

  2. (2)山林の相続税評価方法

    山林が遺産に含まれている場合には、遺産総額を計算するにあたって山林の評価が必要になります。山林の評価方法は、山林の種類によって異なってきます。

    ● 純山林
    純山林とは、市街地から離れた、宅地の影響をほぼ受けない山林のことをいいます。純山林の評価方法は、以下のとおりです。

    固定資産税評価額×評価倍率


    ● 市街地山林
    市街地山林とは、市街化区域内にある山林などであって、住宅地に隣接する場所にある山林のことをいいます。市街地山林の評価方法は、以下のとおりです。

    {山林を宅地とみなした場合の評価額(1平方メートルあたり)-宅地造成費用(1平方メートルあたり)}×地積


    ● 中間山林
    中間山林とは、市街地の近郊にあり、売却価格水準が純山林よりも高い水準にある山林のことをいいます。中間山林の評価方法は、以下のとおり純山林と同じ計算方法となります。

    固定資産税評価額×評価倍率


    対象の山林の区分や評価倍率については、国税庁の「路線価図・評価倍率表」から確認できます。

4、山林を相続せずに放置した場合、起こりうる問題とは

ここまで、山林の相続について解説してきましたが、手続きが煩わしいからといって放置してしまった場合はどうなるのでしょうか。

ここでは、山林の相続を放置した時に起こりうる問題について解説していきます。

  1. (1)相続人が世代を追うごとに増え、遺産分割協議が難しくなる

    被相続人が死亡した場合、相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を相続することになります。そのため、相続手続きをとらなくても山林の権利を取得しないというわけではなく、相続人の共有状態となります

    この状態で山林を放置しておくと、相続人が世代を追うごとに増えてしまい、いざ遺産分割協議をしようとしても、所在不明の相続人がいるなどして、手続きが進まないというケースが少なくありません。

  2. (2)売買や貸与が困難となる

    相続手続きをしないまま放置すると、山林は相続人の共有状態となります。共有状態の山林を売却・貸与は、共有者全員の同意がなければ行うことができません(民法251条)。

    せっかく、山林に買い手や借り手が見つかったとしても、他の相続人の同意が得られなかったり、連絡が取れなかった場合には、売却や貸与ができなくなってしまいます。迅速に手続きを進めるためにも、山林の相続手続きを放置するのは避けるべきでしょう。

  3. (3)管理責任や税負担を逃れられるわけではない

    山林の相続手続きを放置したとしても、山林の管理責任や税負担を逃れることはできません。管理方法や税負担の方法を決めておかないと、一方的に負担強いられた相続人の不満が募り、家族同士で争いが生じるおそれがあります。

  4. (4)災害の原因となる

    相続手続きを放置しているということは、誰も山林を管理していない状態であると推測できます。管理を放置しているとその土地が荒廃し、火災や土砂災害の危険が高まります。また、市街地に近い山林であれば、近隣住民から苦情がくることもあります。

    山林を相続するときは、誰が管理をしていくのかを明確にすることが重要です。

5、まとめ

山林については、昔から放置されているものもあり、名義変更がなされていないものも多くあります。そのため、山林の相続手続きを進めるにあたっては、相続人を特定するのに苦労するケースも多いです。

相続人が所在不明となっているケースでは、裁判所に対して不在者財産管理人の選任などの手続きも必要になることがあります。

また、山林の相続については、相続税の計算も複雑ですので、山林の相続をすることになったときには、税理士に相談することも必要でしょう。

ベリーベスト法律事務所では、弁護士だけでなく税理士なども所属していますので、山林の相続については、法律面だけでなく、税金面からもサポートをすることができます。

山林の相続についてお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 岡崎オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています