傷害罪は罰金か懲役か? 逮捕の流れ・示談交渉の方法とは
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愛知県警察本部が公表している資料によると、令和3年中に警察が認知した傷害・暴行事件の件数は合計で2819件でした。同年中の刑法犯全体の認知件数が3万7832件だったことに照らすと、傷害・暴行事件が占める割合はおよそ7.4%であり、決して少ない数字ではありません。
傷害罪や暴行罪は、知人同士・友人同士・家族の間などでも起き得る犯罪です。ささいな口論やいさかいから暴力沙汰となれば、誰もが犯してしまうおそれがあります。傷害罪に問われるとどのような刑罰が科せられるのか、傷害事件を起こせば必ず逮捕されてしまうのか、気がかりになっている方も少なくないでしょう。
本コラムでは、傷害罪が適用されるケースや刑罰、逮捕される可能性や穏便に事件を解決する方法について、ベリーベスト法律事務所 岡崎オフィスの弁護士が解説します。
1、傷害罪とは?
まずは「傷害罪」とはどのような犯罪なのかを確認していきましょう。
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(1)傷害罪の根拠と成立要件
傷害罪は刑法第204条に規定されている犯罪です。
「人の身体を傷害した者」を処罰の対象としており、端的にいえば「暴力をふるって相手に怪我をさせた」場合に成立します。具体的には以下のようなケースです。- 顔面を殴って打撲症を負わせた
- 脚で蹴って骨折させた
- ナイフで切りつけて出血を伴う切り傷を負わせた
ただし、ここでいう「傷害」とは、人の生理機能に障害を与えること、または健康状態を不良にすることだと解釈されているので、直接的な暴力を加えなくても精神障害を与えれば傷害罪の成立は妨げられません。
これは、約1年半にわたり昼夜を問わず屋外に向けてラジオの音声や時計のアラームなどを大音量で鳴らし続け、近隣住民に慢性頭痛などを引き起こさせた、通称「騒音おばさん」が傷害罪で有罪となったことでも有名な判断です(最高裁平成17年3月29日)。
なお、傷害罪が処罰の対象とするのは「故意」による行為のみです。
一般的な意味での故意は「わざと」といった意味ですが、刑法における考え方としては「犯罪を構成するみずからの行為を認識し、それを認容すること」と解釈されています。
故意がないミスや不注意による行為で他人を傷害した場合は、傷害罪ではなく刑法第209条の「過失傷害罪」に問われます。 -
(2)傷害罪と暴行罪の違い
傷害罪ときわめて近い関係にあるのが刑法第208条の「暴行罪」です。
暴行罪は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立します。
ここでいう「暴行」とは、人の身体に対して不法な有形力を行使することと解釈されています。
具体的には以下のようなケースで該当する可能性があります。- 殴る、蹴る
- 腕や胸ぐらをつかむ
- 頭髪を引っ張る
- 石を投げつける
- 耳元で怒鳴ったり騒音を出し続けたりする
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(3)傷害罪と脅迫罪の違い
傷害罪や暴行罪とは行為こそ異なるものの、同じような機会に生じやすいのが刑法第222条の「脅迫罪」です。
相手の生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加える旨を告知することで成立します。
傷害罪や暴行罪は「有形力」を行使する犯罪ですが、同様に乱暴な行為であっても脅迫罪は口から発する言葉や手紙・メールといった文章などの「無形力」を行使しているという点で区別されます。
2、傷害罪に科せられる刑罰|懲役・罰金
罪を犯すと、刑法で定められた種類の罪と刑罰の範囲(法定刑)によって、どのような罰が科せられるか決定します。
傷害罪の法定刑は以下のとおりです。
15年以下の懲役または50万円以下の罰金
有罪判決を受ければ必ず懲役・罰金のいずれかが科せられます。
では、懲役・罰金とはどのような刑罰か、詳しくみていきましょう。
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(1)懲役とは?
懲役とは、刑務所に収監されたうえで刑務作業という強制労働に服する刑罰です。同じく刑務所に収監される刑罰として「禁錮」が存在しますが、禁錮では刑務作業に従事する義務が科せられません。
懲役の期間は最短で1か月、最長では期限の定めがない「無期」です。傷害罪の懲役は「15年以下」と規定されているため、1か月以上15年以下の範囲で服役することになるでしょう。
ただし、懲役が言い渡される際は「執行猶予」が付されることもあります。言い渡される懲役が3年以下の場合は、裁判官の判断によって1年以上5年以下の範囲で刑の執行の全部または一部の執行を猶予できます。 -
(2)罰金とは?
罰金とは、金銭を強制的に取り立てる刑罰です。取り立てられた罰金は国庫に帰属するため、被害者への賠償などに充てられるわけではありません。
罰金の範囲は「1万円以上」で上限はありませんが、傷害罪では「50万円以下」と規定されているため、1万円以上50万円以下の範囲で罰金が言い渡されます。 -
(3)罰金が支払えない場合
罰金が納付できない場合は、刑法第18条の定めによって1日以上2年以下の「労役場留置」を受けることになります。
おおむね1日あたり5000円の換算で刑務所・拘置所に併設されている労役場に収容されるので、社会から隔離されてしまう事態は避けられません。
3、傷害事件では罰金と懲役どちらの可能性が高い?
傷害事件を起こすと懲役・罰金のいずれかが言い渡されますが、刑務所で服役することになるのか、金銭を納付して済まされるのかでは大きな違いがあります。
罰金か懲役、どちらになるかはケース・バイ・ケースですが、実際の傷害事件で言い渡される刑罰の傾向と、量刑の判断基準とともに解説しましょう。
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(1)傷害事件では「懲役」が言い渡されるおそれが強い
裁判所が公開している司法統計によると、令和2年度中に全国の地方裁判所・簡易裁判所で有罪判決が言い渡された傷害事件の刑罰は次のとおりです。
- 懲役……2236人
- 罰金……433人(地方裁判所324人・簡易裁判所109人)
この統計をみる限りでは懲役が言い渡された人員のほうが圧倒的に多く、罰金で済まされる可能性は低いと考えられます。
ただし、懲役が言い渡された2236人のうち、1481人が刑の全部執行猶予を受けており、実刑判決を言い渡された人員のほうが少数です。
つまり、たとえ懲役の言い渡しが避けられないようなケースでも、裁判官の判断によって執行猶予が付される可能性は決して低くないといえます。 -
(2)傷害事件における量刑判断の基準
刑事裁判において実際に言い渡される量刑は、裁判官がさまざまな事情を考慮したうえで総合的に判断します。
傷害事件において量刑判断に影響を与えるおもな要素は次のとおりです。- 行為の悪質性・計画性……特定の人物相手か、無差別か、など
- 行為の態様や執拗性……何を使って何回殴った、など
- 被害者の負傷程度……重傷・軽傷など
- 犯行に至った背景・事情……金銭トラブルや男女トラブルなどが背景となっているか
- 加害者と被害者の関係性……友人・知人・夫婦・恋人など
- 犯行後の加害者の行動……救護の有無など
- 凶器の有無……刃物やバットなどを使用したか、徒手か、など
- 加害者の反省の有無……謝罪があるか、取り調べ態度は良好か、など
- 示談成立の有無……治療費などの賠償を尽くして許しを得ているか
- 加害者の前科・前歴……同種の事件を起こした経歴があるか、初犯か
4、傷害罪で逮捕される可能性は?
ニュースなどの報道をみていると「傷害の容疑で逮捕」といったフレーズを耳にする機会は少なくありません。
ただし、傷害事件を起こしたからといって必ず逮捕されるわけではなく、逃亡・証拠隠滅を図るおそれがあると判断された場合に限って逮捕されます。
傷害事件を起こして逮捕される割合と、逮捕後の流れについて解説します。
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(1)傷害事件で逮捕される割合
令和2年版の犯罪白書によると、傷害事件を起こした加害者が逮捕された割合は50.7%でした。刑法犯全体の平均が36.5%なので、逮捕される割合はほかの犯罪と比べるとやや高いといえます。
逮捕は、犯行中や犯行後に逮捕される現行犯逮捕と、被害届を出されて捜査された結果、後日逮捕となるケースもあります。逮捕前であれば被害者との示談によって逮捕を回避できる可能性もあるため、早急に弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)逮捕後の流れ
警察に逮捕されると、警察段階で48時間、送致されて検察官の段階で24時間、合計72時間以内の身柄拘束を受けます。
さらに検察官からの請求によって勾留が許可されると、最長20日間にわたって身柄拘束が延長されるため、社会から隔離される期間が長引いてしまうでしょう。
勾留期間が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を判断します。検察官が起訴すれば刑事裁判へと移行し、不起訴となれば刑事裁判は開かれずただちに釈放されます。
お問い合わせください。
5、傷害で前科をつけないためには「示談」が重要
傷害事件を起こしてしまい、懲役・罰金といった刑罰が言い渡されると「前科」がついてしまいます。
職業の制限など、前科がついてしまうとその後の生活において大きな不利益を被ってしまうおそれがあるので、できる限り穏便なかたちで解決するのが望ましいでしょう。
前科がついてしまう事態を回避するには、被害者との「示談」が重要です。
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(1)示談の効果
示談とは、トラブルの当事者同士が裁判外で話し合って問題を解決するといった意味があります。刑事事件においては、加害者が被害者に対して謝罪のうえで治療費や慰謝料などを含めた示談金を支払い、被害届を取り下げてもらうといった流れになるでしょう。
示談が成立して被害届が取り下げられれば、警察が捜査を終了するので逮捕を回避できる、検察官が不起訴処分を下すといった有利な展開が期待できます。
また、示談が成立しなければ、刑事事件が終了した後に民事上の損害賠償請求を受ける可能性もあります。
もし検察官が起訴に踏み切ったとしても、すでに民事的な賠償を尽くしており、被害者の処罰感情も薄れているという事実があれば、刑事裁判において有利な事情として扱われます。
懲役に執行猶予がつく、懲役から罰金へと軽くなるなど、処分の軽減も期待できるでしょう。 -
(2)示談交渉は弁護士に一任するのが最善
傷害事件は友人・知人・同僚・夫婦・家族・恋人など、人間関係が近いところで起きやすい犯罪です。顔見知りであるからこそ容易に解決できる可能性がある反面、人間関係がこじれてしまえばたとえ近い関係であってもかたくなに拒絶されてしまうおそれがあります。
個人による示談交渉は失敗するおそれが強いので、対応はである弁護士に一任するのが最善でしょう。
6、まとめ
傷害罪にあたる行為があると、懲役・罰金といった厳しい刑罰が科せられます。逮捕される危険も高いので、できるだけ早い段階で被害者との示談交渉を進めて解決することが望ましいでしょう。
ただし、被害者との示談交渉を個人で対応するのは容易ではありません。たとえ被害者と近い関係にある場合でも、対応を誤れば示談成立の可能性が絶たれてしまい、処分の軽減が望めなくなってしまいます。
傷害事件の示談交渉は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 岡崎オフィスにおまかせください。
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