ツケ未払いは警察で解決できない!? ツケ回収の方法を弁護士が解説
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新型コロナウイルスの影響もあり、飲食店を中心に多くの事業主が経営方針や資金繰りに頭を悩ませている状況が続いています。
飲食店の経営を悪化させる要因のひとつとして深刻なのが、いわゆる「ツケ払い」を利用する客の存在です。
最終的には支払いが受けられるとはいえキャッシュフローが悪化してしまうほか、なかにはツケが未払いのまま連絡が途絶えたり引っ越してしまったりするケースもあります。
また、ツケ未払いの問題は警察に相談しても解決できません。
本コラムでは「ツケ払い」が高額になってしまった客への対応をテーマに、ツケ払いが引き起こすトラブルや穏便で確実な回収方法について、岡崎オフィスの弁護士が解説します。
1、飲食店で横行しやすい「ツケ払い」の実態
「ツケ払い」は、特に飲食店で発生しやすい代金・料金の支払い方法です。
売り上げの現金化が遅くなるためキャッシュフローが悪くなり、経営を圧迫します。
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(1)「ツケ払い」とは
「ツケ払い」とは、商品の代金やサービスの料金について、その場で支払わず日を改めてまとめて支払う方法です。1か月に1回などの支払いサイトを設けてその都度の支払いを省略する支払い方法で、これを会計上の考え方に当てはめれば「売掛金」と同じ意味になります。
「ツケ」の語源は、売掛金の「帳簿につけておく」というところからきているといわれており、店舗と客との間でおこなわれる信用取引のひとつだといえます。 -
(2)ツケ払いの問題点
ツケ払いの客が増えると、売上金の入金が遅れます。
支払いサイトに従ってきちんと支払いがおこなわれたとしても、その間のキャッシュフローは悪化してしまい、資金繰りが苦しくなる場面も増えるでしょう。
テナント料の支払いや材料の仕入れなどが苦しくなると、借金をしてでも急場をしのがなくてはなりません。
また、取引の手間を省略するためではなく、単に手持ちのお金が少なく給料日まで支払い能力がないといった場合のツケ払いは、支払い予定日が到来しても支払ってくれず金額が膨れ上がってしまうリスクも抱えています。 -
(3)ツケ払いが引き起こすトラブル
ツケ払いがトラブルに発展しやすい業界が、主に水商売と呼ばれる飲食店でしょう。
居酒屋・スナック・ラウンジ・ナイトクラブ・ホストクラブ・キャバクラなどのように酒類を提供する飲食店では、店舗と客の信頼関係によって、ツケ払いが認められやすい傾向があります。
特に、小規模なスナックやラウンジなどでは「あるとき払い」のツケ払いが横行しやすく、「お得意さまだから許すしかない」と渋々これを容認する状況もめずらしくないでしょう。
しかし、あるとき払いのツケ払いは、客が「あの店にはツケが残っている」と来店を避けてしまうだけであっけなく焦げ付いてしまいます。
このため、ツケ払いの際には携帯電話の連絡先を控えているだけでは無視されてしまう可能性も考慮して、自宅住所や勤務先といった情報もそれとなく聞き出しておく必要があるでしょう。 -
(4)悪質なツケ払い、警察は解決してくれる?
ツケ払いのトラブルは、原則、警察に相談しても解決できません。
代金・料金の支払いトラブルは商取引の問題なので、民事的に解決する必要があります。
納得しにくいかもしれませんが、たとえば相場よりも高額な料金を請求する、いわゆる「ぼったくり」の場合でも商取引の対象となるため警察では解決できず、ツケ払いも同様に警察では解決できないのです。
ただし、ツケ払いの申し込みそのものが「そもそも支払う意思も能力もない」といったケースでは無銭飲食に該当するため、詐欺罪が成立する余地があります。
とはいえ、支払いを後日まで猶予している時点で、ツケ払いを約束した時点の支払い意思や支払い能力を否定するのは困難なので、現実的には詐欺事件としての立件は期待できないでしょう。
2、ツケ払い客が時効を主張してきた! 債権の消滅時効とは
店側にとってのツケ払いは、借金などと同じく「債権」にあたります。
そして、債権には「請求できる権利」について時効が存在します。これが「消滅時効」です。
民法の定めによれば、通常、債権の消滅時効は10年とされています。
ところが、飲食店の代金・料金は「短期消滅時効」にあたり、これまでは「1年」で消滅時効を迎えてしまっていました。
ただし、令和2年4月1日からは改正民法が施行され、これまで適用されてきた職業別の短期消滅時効が全廃されています。
もし、現時点でツケ払いを利用した客が1年後に「すでに時効だ」と主張したとしても、すでに消滅時効は、権利を行使することができることを知った時から5年に延長されているため有効な債権として支払いを求めることができます。
一方で、改正前に生じていたツケ払いの未回収分は改正前の民法が適用されるため消滅時効が1年となるため注意が必要です。
3、ツケ払いで時効を成立させないためのポイント
民法が改正されて消滅時効が延長されたとはいえ、時効が成立してしまえば回収不能に陥ります。
「支払いたくない」と考えている悪質なツケ払い客は、消滅時効の到来が来るまで逃げ回るでしょう。ツケ払いで時効を成立させないためには、時効を止めるための手続きが必要です。
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(1)消滅時効の進行を止める手続きとは
消滅時効は、次の手続きを取ることで進行が止まります。
- 裁判を起こして請求した場合
- 催告をした場合
- 差押え・仮差押えをした場合
- 債務の承認を受けた場合
このうち、「催告」または「債務の承認」は時効を止めるための最初のステップです。
催告とは、裁判外での請求と考えればよいでしょう。
口頭または文書によって支払いを求める行為をいいますが、時効を意識した場合は「いつ催告したのか」が重要なので、催告書を作成して内容証明で郵送するのがベストです。
債務の承認とは、相手に債務の存在を認めさせることをいいます。
具体的には、一部でも支払いを受ける、相手から「支払いを待ってほしい」と言われるなどが該当します。
ここで注意が必要なのが、「催告」による時効ストップの効果です。
催告による時効のストップは、催告から6か月以内に裁判所の手続きを起こさない限り効力を得られません。
催告だけでは時効は止まらない、とおぼえておきましょう。 -
(2)法的手段で支払いを求めることで、時効をストップさせることも可能
裁判を起こしてツケを払ってもらうよう請求するなど、法的な手段を用いることでも消滅時効は止まります。時効が止まる法的手段は次のとおりです。
- 調停の申し立て
- 支払督促の申し立て
- 訴訟の申し立て
- 強制執行の申し立てによる差押え
- 仮処分の申し立て
催告の場合は6か月以内に裁判所の手続きを起こさないといけなかったり、債務の承認では「いつ債務を承認したのか」の証拠保全が必要となったりします。
上記のような法的手段を用いて請求するほうが、より確実に時効を止めることができるでしょう。
4、ツケ払いの「債権回収」を進めるには
ツケ払いの債権を回収しようとする場合、証拠を集めることなどが必要になってきます。ここでは債権回収のための準備について詳しく解説します。
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(1)弁護士に依頼し、裁判所に申し立てをする場合
裁判所への申し立てには、ツケ払いがたまっていることを具体的に証明する証拠を取りそろえる必要があります。売上伝票や売掛金の帳簿、客とのやり取りを示すメモ、ツケ払いの申し込みや「支払いを待ってほしい」といったメール・メッセージなどが挙げられるでしょう。
訴訟の申し立てに必要な証拠をそろえるには、法律の知識と経験が必要となるため、裁判所に訴訟を申し立てる場合は、経験豊富な弁護士に依頼したほうが賢明です。 -
(2)個人で回収を目指す場合 少額訴訟という方法も選択肢のひとつ
ツケ払いの回収でも少額であれば「弁護士に依頼するまでもない」と遠慮がちになる方も多いでしょう。
また、お得意さまや常連客を相手に、弁護士に依頼して訴訟を起こすほど事態を荒立てるつもりはないという飲食店オーナーも多いはずです。
まずは自力での交渉で穏便に解決したいところですが、それでも支払いに応じてもらえない場合は法的な手続きに訴えるほかありません。
実は、裁判所の手続きのなかでも「少額訴訟」を利用すれば、自力でも手軽に申し立てができます。少額訴訟の対象となるのは60万円以下の支払い請求です。
原則1回のみの審理で原則即日に判決が下されるうえに、訴訟費用は印紙代や切手代などの合計1万円程度で済みます。
ツケ払いが存在していることを証明する伝票類などがあれば申し立て可能で手続きも難しくないので、少額訴訟もおすすめします。
また、少額訴訟で回収できるのはツケ払いのような支払請求のみではありません。
個人的な借金の返済を求める場合などでも利用できるので、60万円以下の債権回収には手続きが簡単な少額訴訟を利用するとよいでしょう。
5、まとめ
たとえ一度の代金・料金は少額でも、ツケ払いがたまってしまえば未回収の債権としては無視できない金額になります。特に、中小の飲食店でツケ払いが横行してしまうと経営を圧迫する原因にもなるので、確実に回収していくべきです。
お得意さまや常連客のツケ払いがたまってしまい、支払いを求めているのに支払ってくれない、支払いをしないまま音信不通になったなどのトラブルでお困りなら、弁護士への相談をおすすめします。
ツケ払いの回収は、ベリーベスト法律事務所 岡崎オフィスにお任せください。
ツケ払いの支払いをためてしまった客への交渉や法的な手続きを全力でサポートします。
個人的に貸したお金の返済請求なども対応可能なので、まずはお気軽にご相談ください。
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